【なにで「安心」を買っていますか?】

  • 2018/08/11

なぜco-ba nakanoshimaはシェアオフィス、コワーキングを辞めることにしたのか?

今回はその理由について、少し長くなりますが説明したいと思います。

8/18(土)のトークイベントのテーマの一つである「広く弱くつながる」。

今まで佐々木俊尚さんの「広く弱くつながって生きる」に関するネットの記事をご紹介してきたので、記事を読まれた方は「広く弱くつながって生きる」がどういうことか、なんとなくイメージできていると思います。

まだ、読まれていない方のために簡単に説明すると、親しい友達や家族、会社組織のような「強いつながり」より、単なる知り合いや滅多に連絡を取り合わない友人ぐらいの「弱いつながり」の方が人生の「セーフティネット(=安心)」になる、ということです。

マーク・グラノヴェッターという社会学者が「弱い紐帯の強み」という説を唱え、その後の社会学に大きな影響を与えました。「弱い紐帯」とは「弱いつながり」の社会学用語です。「弱い紐帯の強み」について興味のある人はネットで検索してみてください。

さて、表題の【なにで「安心」を買っていますか?】について、佐々木俊尚さんの「広く弱くつながって生きる」のエピソードを引用しながら考えていきたいと思います。

■不安と不安定はまったくの別物(P112)
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 大企業であっても明日がわからない現在、その会社以外に関係性がなければ不安に決まっています。だからこそ、不安定ではあるけどたくさんの関係性があるから大丈夫という安心感を築く。不安と不安定はまったくの別物です。
 いまの時代、10年後に何の仕事をしているかはわかりません。いまの仕事はAIにとって代わられるかもしれませんし、求められる仕事は時代によってどんどん変化します。たとえば、20年前はウェブデザイナーも、電子書籍の編集者もいませんでしたが、いまでは普通の仕事になっています。
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■安定も強さも不確かな時代(p180)
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 現在はいろいろな価値観がシフトしていく過渡期にあたると思います。20世紀的な働き方・生き方に流行性がなくなり、21世紀的な新しい働き方・生き方が広がりつつあります。もう少し広がっていそうなものですが、まだ先端的な試みが行われている状況と言えるでしょう。政府が主導する「働き方改革」も、まだ始まったばかりです。
 そのため、何をどうすれば楽しく生きられるのかというロールモデルが明確に見えていません。いずれもう少し輪郭が明らかになると思いますが、現在は手探りな状態です。
 現在、公務員を目指す若者が増えているのは、そのためだと思います。ロールモデルが見えてくるまでの一時的な現象として、安定的な立場を選ぶのでしょう。
 公務員にやりがいを感じるのであればかまいませんが、単に安定だけを目指して仕事に就いても、楽しい人生は待っていないと思います。まして現在は「地方消滅」などと言われる時代ですので、公務員=安定ではありません。
 だったら一般企業はどうかというと、こちらも先行きは不透明です。私が就職活動をしたのは80年代後半ですが、優秀な人間はだいたい都市銀行か総合商社に入社しました。商社はいまだに元気ですが、昨今はメガバンク3行で3万人以上の大リストラが発表されるなど、銀行員ももはや安定した仕事ではなくなりました。
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■貯蓄で安心感を得るのは難しい(P192)
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 私たちがお金にこだわるのは、お金持ちになってぜいたくな暮らしがしたいというよりは、やはり将来への不安が大きいと思います。世界的に見ても日本人の貯蓄率が異常に高いことが、それを端的に表しているでしょう。
 しかし、お金がどの程度あれば安心かはわかりません。

 (中略)

 私にしても、それほど貯蓄があるわけでもありません。それなりに収入があっても支出もバカになりませんし、基本的には収入が不安定な仕事ですから、年によって収入が1.5倍くらいに増えたり、3分の2に減ったりと激しく変動します。
 すると先の予定が立たないため、真面目に貯蓄するという考え方から外れてきました。その年の収入が少なくても、「まあそのうち稼げばいいか」といった感じです。その根底にあるのは、いい人間関係を築いておけば仕事が入ってくるだろうという期待でしょうか。
 そう考えると、お金を貯めることで安心感を得るのは、飛びつきやすいように見えて、じつはあまり現実的ではないのです。
 以前、デンマークに住んでいる日本人に話したところ、デンマーク人はあまり貯蓄をしないそうです。理由を尋ねると、「たぶん老後の不安がないから」とのことでした。国の社会福祉制度もあれば、いろいろな友人関係もある。それで何とかなるという二重の安心感から、お金を貯める必要性を感じないようでした。
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これまで、引用した文章を物凄く短く要約すると、

過渡期の現在、どこで何をしていても「安定」を手に入れることは難しいので、従来の価値観にとらわれず、不安定でも弱いつながりを広く築いて、自分で考えて行動して「安心感」を手に入れ、楽しい人生を手探りながら手に入れよう

ということだと思います。

さらに、ここから「貯蓄で安心感を得るのは難しい」という項について、もう少し深く掘り下げたいと思います。

そのために、社会派人気ブロガーの「ちきりん」さんの『マーケット感覚を身につけよう』(2015年.ダイヤモンド社)から以下の項からいくつか文章を引用します。

 

■市場の「入れ子構造」を理解しよう(P80)
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 消費市場では、メーカーや飲食店、小売業、通信会社などさまざまな企業が、消費者の可処分所得を取り合っています。モノやサービスを売っている企業は、この消費市場だけに注目しがちですが、実はその前に、すでに熾烈な競争が行われているのです。
 それは「消費市場」と「貯蓄市場」の競争です。そこでは「お金を使う市場」と「お金を貯める市場」が人々のお金を取り合っています。つまりお金を巡る市場は、図12にあるように、複数レイヤーの市場からなる入れ子構造になっているのです。
 上位レイヤーの市場間競争において金融機関は、「安心の老後には何千万円が必要」「子供を1人育てるには何千万円かかる」と煽りに煽ることで、お金を消費市場から貯蓄市場にひっぱてきます。書店に並んでいる多数のマネー誌は、金融業界が一丸となってお金を貯蓄に向かわせるための「貯蓄・投資市場の広報誌」です。

(中略)

 一般の人は「銀行にお金を預ける」とか「住宅ローンを借りる」という言い方をしますが、金融機関で働く人から見れば、「定期預金を売る」「ローン商品を売る」です。
 貯金は商品であり、金融機関はそれを売って利益を上げています。丸の内や大手町にある銀行や保険会社の本社ビルの立派さを見れば、彼らがそういった商品を売ることで、どれくらい儲けているかよくわかるはずです。

(中略)

 金融業界が上位レイヤーの競争を理解できるのは、日本が戦争をしていた頃に、国家ぐるみでふたつの市場の競争が始まったからでしょう。「欲しがりません、勝つまでは」などといって節約を呼びかけ、(後に紙くず同然となる)国債を買わせたのは、まさに国家を挙げての、消費から貯蓄へのお金の移動推進キャンペーンでした。
 政府は戦後の高度成長時代にも国民に貯蓄を奨励し、そのお金で輸出業の設備投資が促進され、鉄道や道路、ダムなどの社会インフラが整備されました。こういう経験から、貯蓄・投資側にいる金融機関は、

 ①まずは消費市場からお金をひっぱってくる
 ②次に、貯蓄・投資市場の中で他の金融機関との競争に勝つ

 という二段階で市場を捉える癖が付いています。一方、消費者側にいる企業にはこういう発想がまったくないので、日本人はやたらと貯金するのがよいことだと思わされています。

(中略)

今年100万円分の貯金が増えたと喜んでいる人は、自分がもしかしてこの1年で、100万円分の貴重な経験を逃してしまったのではないかと、振り返ってみるべきです。「老後には何千万円かかる!」と不安を煽る記事を書いている人は、あなたの老後の心配をしてくれているわけではなく、単に貯蓄市場の広報係に過ぎないのです。
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また、物凄く短く要約すると、

①「貯金をしている」「お金を貯めている」のではなく、「5万円のお金を払えばいつでも5万円を引き落とせるシステム」にお金を払っている。
②将来の不安をなくすために銀行や保険にお金を払って「安心」を買っている。

という認識を持ちましょう、ということだと思います。

たくさん文章を引用してきましたが、そろそろ本題に移りましょう。

◎co-ba nakanoshimaはなぜシェアオフィス、コワーキングを辞めたのか?

今まで、引用してきた文章を読んで頂ければ、co-ba nakanoshimaがどういう場所を目指しているか、自ずとわかってくると思います。

これ以上、長くなるのはなんだか申し訳ないので、シェアオフィス、コワーキングを辞めたのか?という理由はざっくり説明します。

①面積が狭い、ブース席、会議室がないので、シェアオフィス、コワーキングスペースとい うマーケット、市場の中では競争力がないので勝てない。
②じゃあ、シェアオフィス、コワーキングの市場で戦うのは辞めよう。
③川沿いで解放的な空間だし気持ちいいから「公園」みたいな場所にしよう。夜、リバーサイド席でお酒を飲みながら仕事をしているとbarにいるみたいな気持ちになれるから”bar”みたいな場所にしよう。そうだ、coen-barにしよう!

僕たちは従来の価値観や、貯金すること、保険に加入することを批判するつもりは毛頭ありません。それは過渡期の現代でも、自分の人生のセーフティネット、つまり、将来の安心感を手に入れるためには未だに大事なことだと思います。

ただ、それだけではなく、自分自身の楽しい人生のために、自分の頭で考えて行動しながら「広く弱くつながる」を実践して、自分の手でセーフティネット、つまり、将来の安心感をつくっていきませんか?という提案を僕たちはco-ba nakanoshimaでやっていきたいのです。

いや、co-ba nakanoshimaではなく、co”en”-ba”r” nakanoshimaです。

公園で本気で遊んでいる子供たちみたいに、大人も本気で遊べばそれはきっと仕事になります。その仕事は決してAIなんかに奪われる仕事ではないと思います。AIが楽しいことをしたいと思うのでしょうか?

公園なのだから、子どもから老人まで全ての人に開かれているべきだろうと思います。

barのカウンター席は、職業、肩書を脱いで座る場所だと思います。そこでは、年齢、年収、社会での役割なんて意味がなくて、1人の人間としておもしろいか、おもしろくないかが試される場所だと思います。

barの扉は訪れる人みんなに開かれていますが、そこで楽しくお酒が飲めるかどうかはその人次第。

coen-bar nakanoshimaもそんな場所を目指しています。

そんな僕らの考えが楽しそうだな〜って思ってくれる人はぜひ一度、coen-bar nakanoshimaに遊びに来てください。

8/18(土)には1ヶ月越しのオープンイベントも開催します。
気が向いたら遊びに来てください。

【8/18(土)】co-ba nakanoshima OPEN EVENT〜広く弱くつながる、多拠点、リモートワーク〜

https://coen-bar-nakanocinema-open.peatix.com/

 

〈参考図書〉
広く弱くつながって生きる (幻冬舎新書) 佐々木 俊尚

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マーケット感覚を身につけよう—「これから何が売れるのか?」わかる人になる5つの方法 ちきりん 

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