「犯罪機会論に学ぶ 安心安全なまちづくり」イベントレポート

  • 2018/07/06
※このイベントは終了しました。

イベント内容

2018年6月30日に調布企画組とコラボで「犯罪機会論に学ぶ安心安全なまちづくり」を開催しました。

登壇者としてお呼びしたのが、犯罪機会論の第一人者である立正大学教授で社会学博士の小宮信夫先生。

 

「こじんまりしていて、みなさんの学びたい意欲をビシビシ感じる場でした」と小宮先生。おかげで気分が乗ったそうで、法務省時代のオフレコ話などオモシロトークがさく裂した2時間となりました!

 

犯罪機会論との出会い

 

そもそも私たちが「犯罪機会論」に出会ったきっかけは、近所に住む男が小学生を殺害し死体を遺棄した“新潟女児殺人事件”の関連記事でした。

http://wedge.ismedia.jp/articles/-/12789

小宮先生が書いたその記事で、初めて「犯罪機会論」という言葉に出会いました。

この理論は、起きた犯罪の原因を追究し、しばしばその原因を「人」に求める「犯罪原因論」とは対極の理論で、犯罪は「機会」を得て初めて実行されるものであり、犯罪の発生要因は「犯罪が発生した環境(場所)にある」とするものです。

近所のおばあさんが、下校中の子どもたちに他愛のないことを話しかけただけで通報される時代。親としても、「知らない人はひとまず疑え」と教えるのには抵抗があった中でこの理論に出会い、もっと知りたい!!と思っていたところに、さまざまな偶然が重なり、調布での講演が実現しました。

 

今までの「防犯」は防犯になっていなかった!?

 

最近子どもたちの多くが身に着けている「防犯ベル」。それを使うのはどんな時でしょう?ーーそう、実際に危ない目にあった時に初めて鳴らすものですよね。つまり、既に犯罪にあってしまっているのです。

小学校では繰り返し「不審者に気を付けて」と子どもたちに教えていますが、不審者はどうやって見分けたらいいのでしょう?マンガのように、サングラスをかけて帽子をかぶっているとは限らないですよね。凶悪事件が起こると、「今までどんな人生を歩んだのか」「どうしてそんな人物がうまれてしまったのか」など、メディアも“人”に焦点を当てがちです。

しかし、犯罪機会論では、この犯人たちは「環境」が整ったから、自分の欲望願望を実行に移してしまったに過ぎないと考えます。

小宮先生によると、池田小学校の無差別殺傷事件の犯人はこう供述したそう。「あのとき、校門が閉まっていたら、この事件は起こさなかった」と。

また、暗くて危ない場所でも街灯をつければ安心!という考えも間違っているといいます。

 

「昼間でも人目が少なく危険な場所に街灯をつけたところで、そこが明るかろうと暗かろうと危険な場所であることには変わりがないのです。大事なのは、そこが入りにくく、見えやすい場所かどうか、ということなのです」

 

人は嘘をつくけれど、景色は嘘をつかない、と小宮先生。

犯罪が起きそうな場所を予測し、そこを重点的にパトロールしたり、犯罪が起きにくい環境に整えることが、本当の意味での「防犯」となるのです。

 

「入りにくく」「見えやすい」場所とは

 

「入りにくく」「見えやすい」場所とは、どういった場所なのでしょうか?

犯罪機会論は、犯罪が起こる前の「リスク・マネジメント」の立場をとります。リスク・マネジメントで最も重要なことは「予測」すること。犯罪を予測するものさしが、先ほどから繰り返し出てきた「領域性」(入りにくさ)と「監視性」(見えやすさ)なのです。

 

「そこが安全かどうかは、景色が教えてくれる」

 

と小宮先生。

 

安全な場所は、不審者がそのエリアに「入りにくく」、周りから不審者の姿が「見えやすい」ところ、ということになります。景色を解読し、そこが「入りにくいかどうか」「見えやすいかどうか」を検証することによって、未来の危険を予測できるのです。

子どもをターゲットとした犯罪の犯人が子どもを物色する場所として好むのは、「学校周辺」「団地」「公園」、そして、「人通りの多いエリア」だそう。どこも子どもがいそうなエリアで納得ですが、人目の多い「人通りの多いエリア」が入っているのはどうしてでしょう?

 

「人通りの多いエリアは、人々の意識も責任も分散されている状況で『心理的に見えにくい』場所です。周りにどんなにたくさん人がいたとしても、あなたの子どもに意識を向けている人は、親であるあなたしかいません」

 

また、日本の公園では、遊具を見守るようにベンチが配置されている光景をよく目にしますね。これも、犯罪者にとっては子どもを物色するのに最高の場所ともいえるそう。

 

「ベンチが遊具に向かって配置されていると、そこに不審者が座って本を読んでいるふりをしていても、なんら不自然さがありません」

 

例えばニュージーランドのある公園では、遊具のあるエリアが柵で囲われており、その周囲に背を向ける形でベンチが配置されています。柵の中(子ども専用のスペース)に入るだけで子どもも周りの大人も警戒するので、だまして連れ出すことは難しくなります。さらに、子どもを見守る保護者達は、我が子に視線を向けている怪しげな人物がいないか、周りを監視できる環境になっています。つまり、この遊び場は『入りにくく、見えやすい場所』で安全と解読できます。

他にも、歩道橋の上や、歩道と車道がガードレールで仕切られていない場所(車道から簡単に子どもと接触できる)、公園やショッピングモールのトイレ周辺なども、入りやすく見えにくい場所として注意が必要です。ショッピングモールのトイレのそばに休憩用ベンチが設置されている光景は、日本で多く見られます。多数の人が行き交う場所で人目が多い印象ですが、不特定多数の人が1往復するだけなので、ベンチに不審者が長時間居続けたとしても、誰も気づきません。つまり、「入りやすく」「見えにくい」危険なエリアと解読できるのです。

 

安全教育も積み重ね

 

会場から「景色の解読は子どもには難しいのでは」という声が。

 

「難しいのは当然です!!しかし、『かくれんぼするならどこに隠れる?』など教え方次第で未就学児にも景色の見方を伝えることができます。また、大人にも『立ちションするならどこにする?』『タバコを吸うならどこで吸う?』など、別のシチュエーションで想像させれば、容易に解読することができます」

 

安全教育も積み上げの学習が必要ですが、まだまだ日本ではその重要性を理解されないといいます。

 

「子ども自身が判断できる知識を持てたらいいですね。危険な目にあいそうになった時、“もしかしたらだまされているかも?”と思えるだけで、こちらが主導権を握ることができるのですから」

 

小宮先生は、実際に街歩きをして景色を見分ける力を養うことを目的とした「地域安全マップ」の考案者でもあります。グループごとに決められたエリアを実際に歩いてみて、「入りやすさ」「見えにくさ」を基準に気になる場所を写真に撮っていきます。街歩きから戻った後、「どういう点で危険だと思ったか」などキャプションを写真に加えて、模造紙に描いた地図上に貼っていきます。

現在は、小宮先生の教え子たちが中心となって「地域安全マップ作製ワークショップ」を全国で開催しています。この取り組みは、被害防止の方法を教えるだけでなく、地域の人とのマップづくりを通して、人を信じることの大切さや、地域に貢献することの喜びを子どもたちに伝えています。

イベント最後の30分ほどで、参加者が撮影した「危険と思われる場所」を小宮先生が解説。

具体的に「入りにくく」「見えやすい」場所にするにはどうすればよいかの方法を提示してもらうことで、景色の見方をレクチャーしてもらいました。

 

イベントを終えて

 

co-ba chofuのコンセプトの一つに「まちづくりの拠点となること」があります。

今回は、調布近辺の方が多く参加してくれて、「地元にも広げます」「周りに伝えます」というコメントも複数あり、なかなかいい企画だったなあ、と自画自賛しています(笑)

調布企画組との出会いにも感謝です。

 

個人的には、人を疑うのではなく、環境(場所)に目を向けるという考え方は、目からウロコでした。これって、防犯に限らず他の領域でも応用できるのでは?と可能性を感じるのです。

参加者アンケートでも満足度が高かったので、次回のイベントも検討していきたいと思います!

【参考図書】

写真でわかる世界の防犯―遺跡・デザイン・まちづくり(小宮信夫著、小学館)

地域安全マップ作製マニュアル(小宮信夫著、東京法令出版)

 

 

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