日本に「コワーキングスペース」という言葉がまだ浸透していなかった2011年に「co-ba」は渋谷に誕生。今や全国23カ所までに拡大し、利用者増に伴い“コワーキング” という言葉も一般化した。
そんなco-baが今、自らを改革するための新たな拠点として選んだのが、同じ渋谷の「神南」エリアだ。「co-ba jinnan」の指揮を取る20代の若き2人に構想を聞いてみると、出てきた言葉は「ヒリヒリする場所」「世界を壊してやる、という空気感」「自分で自分を殴り続ける」……なにやら物騒である。どうやら、みんなが知るあの和やかな雰囲気のco-baとは一味違うらしい。「他のコワーキングスペースでは満足できない人に選ばれたい」というco-ba jinnan。一体、どんな場になるのか。
荻野「今のco-baには、スタートアップ、クリエイター、NPO・社会起業家の3つの領域の方が入居することでシナジーが生まれています。一方でco-baの立ち上げ期に比べ、スタートアップの割合がどんどん減ってきており、危機感があった。そこで、co-ba jinnanはスタートアップ・起業家に特化しようという構想となりました」
この場所に集めたい「起業家」とは、どんな人物像なのか?そして起業家たちは、何を求めているのか?30人以上の起業家と会いその像を探ると、今までのco-baとは違った場所が求められていると気付いた。
荻野「最初は、水田のような場所を構想していました。アイディアの早苗が、自立して根を張り、実がつくまで、害虫が来たら取り除き、水を換え…と、コミュニティマネージャーがしっかりと手をかけて利用者を育てていくイメージ。起業家にとって”優しい”場所を作ろうとしていました。でも実際に起業家に会って話を聞くと『work or dead(働くか死ぬか)』みたいな壮絶さがあり、生半可なコミュニティやサービスなんて要らないんだよね、と」
行き着いたのは、お行儀のよい「仲良しコミュニティ」をつくるのではなく、社会を変える起業家たちがぶつかり合って、その場所から世の中を変える動きが生み出されるような「ファイトクラブ」をつくるという構想。「社会を変えてやる」と考える尖ったベンチャーの起業家があえて厳しい環境に身を置き、切磋琢磨できるような場所を整えることだった。
他のコワーキングスペースとは違う、起業家同士がしのぎを削るような場を、一から作り上げるためには。co-ba jinnanの運営を一任された荻野が、この挑戦をともにしたいと熱烈な「ラブレター」を書いた相手が、大学院時代に社会工学の専攻で同期だった吉田民瞳だった。吉田は荻野が書いた求人メッセージを読んで、転職して荻野とともにこのプロジェクトに従事することを決意する。
吉田「荻野が『コミュニティといいながら、コミュニティそのものをぶっ壊すようなことがやりたい』と書いていたのが響きました。今の世の中にはコミュニティという言葉が充満しているけど、内向きで排他性が高いコミュニティ形成を推進することへの問題意識がずっとあった。建築には、都市を構成するパーツを分解して、その組み合わせを言語化する『パタン・ランゲージ』という発想がありますが、co-ba jinnanの構想は同じように、色んな職能を持った『人』がひとつの場所に集まることで、お互いが補完し合うような形で一個のコミュニティが出来上がる、というもの。内向きで過度に自己組織化してしまうコミュニティとは違った、健全ともいえる場の作り方への考え方に、共鳴したんです」
荻野「co-baをはじめとしたコワーキングのいいところは、さまざまなプロフェッショナルが集まっているということですが、今のco-baでは、集まった先に何が起こるのか?という世界が、まだ十分に作れていないと感じています。どういう世界、カルチャーになるのかわからないけど、その世界を見てみたいんです」
インターネット上のチャットやVRで、直接的でなくても会える時代。わざわざ同じ空間に集まる意味、しかも個性が強く主張の激しい起業家同士が集まる意味とは、何なのだろう。
吉田「別々の目的を持った人たちが一カ所に集まったら、当然ノイズが入ってきますよね。それを単なるノイズだと思ったらうるさいけど、もしかしたらそれが全く別のアイディアに生きるということも、十分に起こりうる。それは、場所を共有していないとできないこと。スタートアップは特に自分たちの『存在意義』を考えるような時間が多いと思いますが、そのとき他の起業家とコミュニケーションを取ることで、他との違いは何なのか、なぜやっているのか、どこに向かっているのか…そういったことを形成していくことができるのかなと。そのために、この場所を使って欲しいんです」
co-ba jinnanは、一人で創業したときから、仲間が参加し、組織化していく…というスタートアップの成長の過程で、その段階ごとに合わせて場を活用し、議論を深めることができるように設計されている。
荻野「自分が誰か?というのは他人がいないとわからないことがある。だから『フリー席』のような、固定されていないオープンなスペースを設けています。一人から2〜3人に増えた段階では、机を合わせるとバトルのようにディスカッションを始めることができる『ドックベース』を、チームになったときには小規模の個室を使える。その段階ごとに合わせて、『そもそも自分たちって何?』というような議論ができる環境を整えたいと考えています」
今後は起業家たちが登壇し、トーナメント形式でアイディアを戦わせる「ファイトクラブ」等のイベントも用意する予定。同じ場所で「ノイズ」を共有し、起業家・スタートアップ企業同士が刺激を受け合う「ヒリヒリ感」を煽っていくような仕掛けをしていくという。
渋谷の大規模開発の流れからは外れ、比較的未開発でいた神南エリア。一時は相次いだアパレル出店のブームも過ぎた今、2人はco-ba jinnanから神南という街に「社会を変える起業家を生む」という新しい価値を与えようとしている。7年前に「co-ba shibuya」を作ったツクルバ代表の村上浩輝・中村真広の2人の創業者も「神南という新しい舞台で、この2人なら熱狂の踊りが作れる」と太鼓判を押し、co-baの新しい扉を開く若き2人への世代交代に期待をかける。
吉田「他のコワーキングスペースでは違うな、という人に来てほしい。熱量を持っている人にとって、ここは居場所。壁打ちするような相手がいないとか、スタートアップで何か欠けていると感じている人に来て欲しいですね。その中で僕たちはコミュニティを “マネジメントする”とか、 “支援する” とか、そういう立場ではない。自分たちは起業家ではないから、そういう人たちに対して超かっこいいな、というある種の憧れがある。まだまだ洗練されていない僕らが、この場所で一緒に成長したいし、一緒にヒリヒリしながら、自分たち自身も『なぜこれをやっているんだっけ?』と問い続けていきたい」
荻野「work or dead、の世界、まじで世界壊してやる、社会を変えるんだ、みたいな空気感を作りたい。以前世界一周したとき、レインボーファミリーというヒッピーの集まりに出会って、そこではジャングルでみんな全裸になって遊ぶのですが、最初はそこに入ってもパンツを脱げない。でもだんだんのめり込んでいくと『なんでパンツ履いてるんだっけ?』と思うようになって、パンツを脱げる瞬間にコミュニティの一員になる。ヒリヒリしている起業家たちは、みんな “パンツを脱いでる人”だと思うんです。その中に入ると、自分はまだまだいけるな、とか、もっと脱いで全力で走らないといけないな、とか、が分かるんじゃないかな。そんな空間を作りたいし、そのためには自分自身が常に自分を殴り続けているような自問自答をしていることが必要だと思っています」
▼本件に関するお問い合わせ
株式会社ツクルバ
シェアードワークプレイス事業部
荻野(おぎの)
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