雨の日の景色を変える――傘のレンタルシェアサービス「アイカサ」で、新しい文化を作る起業家 |アイカサ 代表 丸川照司

  • 2018/11/20

「僕はこのサービスで、新しい景色を作りたい――」。

そう語るのは、傘のシェアリングサービス「アイカサ」を展開する株式会社Nature Innovation Group代表取締役の丸川照司さん。

日本洋傘振興協議会によると、国内の洋傘の消費量は年間で約1億2000~3000万本。その中には、昨日買ったばかりなのに、電車や職場に忘れてしまいコンビニで買ったという傘も多く含まれるでしょう。そんな無駄な消費を減らして「新しい傘文化を作る」と語る丸川さんは、ある出会いをきっかけに、co-ba shibuyaに入居してくれました。

丸川さんが開発を進めるアイカサは、LINEのアプリから傘1本1本に設定されている暗証番号を取得し、傘についているダイヤルロックを解除するだけで利用できます。利用料は70~420円の従量課金制となっており、売上の1%が環境のために寄付される仕組みです。

今回は、丸川さんにアイカサが目指す未来や起業のエピソードなどの話を伺いました。

雨の多い日本だからこそ、大きな景色の変化を

――丸川さんはソーシャルな活動に関心が強かったのでしょうか?

丸川:興味を持つようになったきっかけは、大学の休学時の体験でした。幼い頃から週に8つの習い事をしていたり、小学生の頃に海外留学をさせられたりと、人生の早い時期にレールを敷かれた環境にいたことへの反発もあって、中学校のころから反抗期になったんです。
大学一年生の頃には、「自分が本当にやりたいことって何だっけ?」という疑問を抱きました。そこで、家庭の事情で大学を休学したときに、新しいことに挑戦しようと思って。飲食店に募金箱を置かせてもらったり、児童相談所の一時保護所(家庭に問題が起こった子どもの一時隔離施設)のボランティア活動などに参加しました。募金やボランティアなどは社会的に良い取り組みではあっても、活動を持続することの難しさを感じたんです。
そんな時に、認定NPO法人フローレンスの駒崎弘樹さんや連続起業家の家入一真さん(現・CAMPFIRE代表取締役社長)の取り組みを知って。「社会変化を起こして持続的に活動できるソーシャルビジネスに挑戦してみたい」と思うようになりました。

――社会に良い活動を持続可能なものにするために、ソーシャルビジネスに関心を持つようになったんですね。

丸川:そうなんです。ただ、気持ちは芽生えたものの、ソーシャルビジネスでやりたいことはなかなか見つからなくて。大学休学中には、オンラインで母親向けの親子関係相談事業をやってみたり、株式会社ノジマでセールスの業務を経験しました。復学後も、いろいろな講演会へ足を運んだりしてみたのですが、中国語と英語のスキルアップと勢いのある発展途上国へ住んでみたかったのもあり、マレーシアの大学に編入しました。
そこで、自動車や自転車を中心にシェアリングサービスが当たり前のように使われている光景を見て。中国でもシェアエコブームが頻繁に報道されていたり、2013年にタイムズ24がカーシェアリングサービスを始めてたりして、シェアリングサービスが普及している状況に衝撃を受けました。これらの体験が、アイカサの着想につながっていると思います。

――シェアリングサービスの中でも、なぜ傘だったのでしょうか?

丸川:傘は持ち歩くのが面倒なのに、欲しいときになかったり、買っても忘れてしまうことが多いですよね。傘がいつでも借りることができるようになったら、一気に便利になりますし、エコにもなるので、事業を成功させることのモチベーションを感じたのが大きいです。

近すぎず遠すぎず程よい距離感があるコミュニティ

――co-ba shibuyaに入居したのは、起業のタイミングでしたよね。もともと、co-ba shibuyaのことはご存知でした?

丸川:いえ、知らなかったんですよ。登記をする場所を探している中で、知人の紹介(会員である株式会社Same Sky「CAFE PASS」 二方さん)で知りました。

――最初はどんな印象でした…?

丸川:見学で初めて訪れた際は、非常に緊張していました。でも、コミュニティマネージャーが僕の手帳に書いてある落書きを見ながら爆笑してくれて。「私もよく書く」と共感してくれたんです(笑)。一気に緊張が解けて、ここで頑張りたいと思えました。

――ありがとうございます(笑)。実際に入居された後は、会員の方と積極的に交流しているように感じますが、どのように利用されていますか?

丸川co-ba shibuyaの入居者にはエンジニアも多く、サービスに対して率直で的確な意見を教えてもらっています。サービス開発にも協力してもらえるのが有難いですね。
アイカサのβ版テスト時、想定したよりも利用数が伸びなかったんです。良いサービスだし、絶対に必要だと確信しているにも関わらず、使われない。「なんで使わないの?」という気持ちが正直あったのですが、入居者にアンケートをしてみたら改善ポイントを教えてもらえて。ユーザーが期待していることと提供側とのズレを気付かせてもらったんです。

――入居者との交流の中で、嬉しかった瞬間はありましたか?

丸川:資金調達後に、いつもアイカサを応援してくれる入居さんに仕事を依頼して、一緒に開発ができたのは嬉しかったですね。クラウドソーシングで外注する方法もあるとは思うんですが、サービスを知ってくれているからこその気遣いがあり、非常に助かりました。
co-ba shibuyaのコミュニティは、関係が近すぎず遠すぎずで程良いと感じているのですが、仕事をする相手としても「顔の見える関係性は良いな」と思った瞬間でしたね。

「アイカサを当たり前の文化として根付かせたい」

――今後、アイカサはサービスとして、どう展開していくのでしょうか?

丸川:2018年3月に行った渋谷でのβ版テストの結果を踏まえて、ブラッシュアップしています。本格的なサービス展開に向けて、12月にまた渋谷でローンチする予定です。
メルカリが提供する自転車シェアサービス「メルチャリ」が、最初に福岡や国立で実証実験を行ったように、シェアリングサービスは特定のエリアで利用してもらい、ユーザーのフィードバックを得ながら改善することが必要です。そのため、まずは「少ない人数でも気に入って使ってもらえるサービス」を目指して、渋谷での実証実験に臨みたいです。
β版テストでは、スタートアップなので駅などの便利な場所にスポットを設置することが難しかったり、利用する際にWebサイトで登録をすることやQRコードを読み取るのが手間だと分かりました。廃棄される傘のリサイクルとしての仕組みも取り入れたかったのですが、まずはサービスとしての使いやすさを優先して、現在さまざまな改善を加えていきます。
たとえば、β版では寄付をしていただいた傘にQRコードのステッカーを貼ったものを用意していましたが、12月の実証実験ではダイヤルロック式の傘を活用します。Webサイトでの登録もLINEの友達登録に変更し、LINEのアプリ上で得られる暗証番号を入力するだけにしました。これにより、ユーザーに負担をかけない形が実現できると考えています。

――利用料は1日70円と安いように感じますが、ビジネスとして成り立つのでしょうか?

丸川:新しい文化を作れたら、一人あたりの利用料が安かったとしても、ビジネスとして成り立つかと。たとえば、海外だと配車サービス「Uber」は非常に安い価格で利用できます。これは「ちょっとした移動でも配車サービスを利用する」という文化をつくり、ユーザーを増やしたから実現できたのです。同様に、急に雨が降ったとしてもビニール傘を買わず、アイカサを利用するという文化が作れたら、継続的にビジネスが可能と考えています。
中国では、15社ほどの傘シェアサービスが存在していました。どのスタートアップも億単位の出資を受けましたが、実はそのほとんどが潰れています。これは「傘文化」の薄い国だからと思っていて、傘の消費量が多い日本では勝算があるのではないかと考えています。


――最後に、今後のビジョンを教えてください。

丸川:アイカサとしては、「昔はビニール傘って買っていたらしいよ」という会話が生まれるほど、当たり前の文化として根付くサービスを目指したいと思っています。たとえば自動販売機の横とかでも、さっと傘が借りられるような風景が見られると嬉しいですね。




これからの人生の夢として、社会起業家を支援する側にもなりたいという展望も話してくださった丸川さん。自身が経験した「レールの上の人生」から、一歩外に出る勇気を持続的な形で支援したいという気持ちが根底にはあると語ってくださいました。数年後、アイカサが普及することによって、日本の雨の日の景色は大きく変わっているかもしれません――。


[Profile] 丸川照司

アイカサ 代表

台湾と日本のハーフで4割ほどシンガポールなど東南アジアで育ち中国語と英語を話せる。 18歳の時にソーシャルビジネスに興味を持ち、 社会の為になるビジネスをしたいと志す。 19歳の時に子ども目線の反抗期カウンセラー、 20歳に株式会社ノジマでセールストップ10、 その後マレーシアの大学へ留学。 在学中に中国のシェア経済に魅了され、 私自身が最も欲していた傘のシェアリングサービスを大学を中退して始める。 現アイカサ代表、 夢は財団を作ること。