「幾度ものピボットは失敗ではなく、成功するための糧だと信じています」
学生時代にEnbowl株式会社を設立し、数々のサービスをリリースした経験をもつ笹原信太郎さん。数回にわたるピボットを経て、現在は知人や専門家のクチコミから自分にあう本を見つけられるブックコミュニティアプリ「Booket」を運営しています。
笹原さんが数度のピボットを経ても諦めずにサービスを作り続られるのは、同じく経営者である父親の影響が大きいと言います。
今回は、笹原さんにEnbowlが目指す未来と、co-ba shibuyaとの関わりについて伺いました。
——Booketの前にも、笹原さんはいくつかサービスを立ち上げられていると伺いました。どのようなサービスだったのですか?
学生時代に起業し、ペット事業を始めました。その後、企業のアンケートに答えてポイントを貯め、モノやサービスと交換できるアプリ「moraco」を立ち上げています。
——最初に立ち上げたペット事業は、どのようなサービスだったのでしょうか?
ペットの情報を発信するキュレーションメディアを運営していました。
これまでに実家で犬を4匹飼ってきたこともあり、ペットが家族のようにそばにいるのが当たり前の環境で育ちました。でも、日本では多くのペットが殺処分されている事実を知り、衝撃を受けて……。調べていくうちに、飼い方に関する情報不足が育てづらさの一因になっていると分かったので、ペットの世話やしつけに関する情報発信をしようと考えたのです。
——初めての立ち上げでしたが、事業はどうでしたか?
当時はキュレーションメディアの全盛期だったので、すぐに事業は軌道に乗りました。売り上げも右肩上がりだったんです。でも、開始して約1年後にピボットを決意したんですよ。
——順調だったのに、なぜピボットを……?
一定のPV数を保つためには、SEO対策をし、Google検索で上位に表示される必要があります。でも、SEO対策のキーワードで埋め尽くした記事を量産することが、本当にユーザーのためになっているのか疑問に感じるようになってきて……。
キュレーションメディアという事業モデルでは、「ペットを大切にしてほしい」という当初の想いを実現するのは難しいと考えて、撤退を決意したのです。
——事業自体は好調な中での撤退に迷いはなかったのでしょうか。
当時、会社には僕を含めて3人のメンバーがいましたが、撤退するかしないかで、意見が割れてしまって……。うまく意見をまとめられずに、結果としてメンバーは去ってしまいました。その時は、自分の力不足を感じてとても苦しかったですね。
——そんな状況でも、諦めずに次のサービスを立ち上げられたのはなぜだったのでしょうか。
なんとかしなければと、色々な領域で活躍している人に、とにかくたくさん会いにいきました。
様々な人に話を聞くうちに、今成功しているように見える人でも、裏では多くの失敗を経験していることに気づけたんですよね。「失敗は次に活かせば失敗ではない。成功への糧だ」そう教わって、また頑張ろうと思えたんです。
——そこから立ち上げたサービスが、ユーザーが企業に個人情報を提供して、代わりにポイントを得られるmoracoですね。
そうですね。moracoの特徴は、提供した個人情報が漏洩しないように、ブロックチェーン技術を用いている点にあります。
当時は、EUやアメリカで個人情報保護に関する法制度が厳格化され、同時に個人情報を安全に記録できるブロックチェーンが注目を集めていました。ちょうど日本でも2020年に個人情報保護保護法の改正案が提出されることが決まっていました。同じ流れはやがて日本にもくるはず。そう見込んで、moracoを開発したのです。
しかし、見込みとは裏腹に、日本の企業における個人情報保護に関する関心は高まらなくて。ユーザー数は伸びていたのですが、取得した個人情報を活用したいという企業のニーズが当時はない状況でした。そこで、こちらもリリースして1年弱でクローズすることに決めたんです。
法制度の変更という事実だけに注目するのではなく、その変更によってユーザーの関心はどう変化するのか、どんなサービスであればユーザーの関心とマッチするのかまで考えたうえで開発する重要性を学びましたね。
——笹原さんは、2019年8月にco-ba shibuyaに入居されています。たしかmoracoをリリースされたばかりのときでしたね。
そうでしたね。ちょうどその頃、これまで使っていたコワーキングスペースが閉鎖することになって、渋谷近辺で場所を探していたんです。それで、偶然co-ba shibuyaを見つけたんですよね。
入居してみて驚いたのは、定期的に交流会や勉強会が開催されていて、コミュニティマネージャーもこまめに僕たちに声をかけてくれること。
co-ba shibuyaのコミュニティ運営に対する本気度がひしひしと伝わってきました。
——そう言ってもらえると嬉しいです!入居してみて、特によかったと感じることはありますか?
資金調達が難航していた時期に、コミュニティマネージャーが他の入居者の方を集めて、ピッチの練習会を開いてくれたんです。
ピッチを聞いてくれた方からは、「抽象的なスライドの次は、具体的な数字を入れたスライドにしたほうがいい」「マーケット規模を先に説明してから、ビジネスモデルの説明をしたほうがいい」など、資料構成や発表方法に関して、たくさんのフィードバックをもらえて。
意見を参考に改善したところ、投資家からの反応がびっくりするほどよくなったんですよ。本当にありがたかったです。
——co-ba shibuyaの入居者には起業して、資金調達を経験している人もたくさんいるので、説得力がありますよね。
自分自身で事業を立ち上げている人が多いので、アドバイスがいつも的確ですし、事業がうまくいかない時は親身になって話を聞いてくれる方も多くて。
会社を立ち上げたばかりの起業家はうまく行かないことも多く、孤独です。だからこそ、アドバイスをし合えたり、励ましあえたりする仲間がいることが本当に嬉しいですね。
そういう意味で、僕にとってco-ba shibuyaは「困難があっても、頑張ろう」と前を向かせてくれる場所になっていると感じます。
——12月にリリースしたBooketについて詳しく教えてください。
Booketは、知人や専門家のクチコミから自分にあう本を見つけられるブックコミュニティアプリです。
例えば、起業家の方だったら、けんすうさんがTwitterでオススメしている本って思わず買ってしまったりしませんか?そんなふうに信頼している「人」から読みたい本を探せるのがBooketです。
——なぜブックコミュニティアプリだったのでしょうか。
自分たちがサービスを立ち上げる時の経験がきっかけとなっています。
サービスの立ち上げ時には、プログラミングやマーケティング、組織づくりなど、多領域にわたる知識をゼロから学ぶ必要性があります。でも、よく知らない分野だと、どんな本を読んで学べばいいかすら分からないことも多いんですよね。
そんな時、先輩起業家などその領域に詳しい人がオススメしてくれる本を読むのが、一番学習効率が良く、信頼できる情報が得られると気づいたんです。
Amazonは様々な人の総合評価は見られますが、それが誰のオススメかはわかりません。そこで、その領域に詳しい人のクチコミが見られるアプリを開発すれば、需要があるのではないかと考えたのです。
——マネタイズはどのようにしているのでしょう。
ユーザーが本を購入した際の紹介料と、出版社等のクライアント企業からの広告・タイアップがメインです。今後は、書店や出版社など出版業界の事業者向けにSaaSツールを提供していけたらと考えています。
——今後、Enbowlとして目指していきたいことはありますか?
Booketをもっと世の中に広めていきたいと思っています。現在のユーザーは、SEOやプログラミングなど、特定の領域を学びたいビジネスパーソンが多くなっています。今後は、志望大学の先輩がオススメする参考書を知るために、受験生がBooketを使うなど、ユーザー層や使用シーンを広げていきたいですね。
Booketを使えば「誰が、何を読んだか」という知の足跡をたどることができ、自分の世界が無限大に広がっていく。そんな社会を目指したいと考えています。
↑ Enbolw エンジニアの椙村 優太さんとのミーティング風景
——笹原さんが大きなビジョンを描き、歩みを止めることなく前に進み続けられる原動力は何なのでしょうか。
原動力は、同じく経営者である両親に「いつか追いつきたい」という気持ちかもしれません。
僕の実家は、祖父の代から続く精肉店と畜産業を営んでいました。でも、僕が中学生のころに口蹄疫がはやって、存続の危機に追い込まれてしまって。
当時、両親はかなり不安だっただろうと思います。でも、一切苦労を子どもに見せずに経営を立て直したのだと大人になってから知りました。
辛いことがあるたびに「僕が今抱えている不安なんて、当時の両親からすればちっぽけなものだ」って思うようにしているんです。
両親のような経営者になるためにも、これからも足を止めず前に進み続けていきたいです。
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「失敗を挫折だと捉えるのではなく、成功のための糧だと捉えたい」そう語る笹原さんからは、諦めずに父のような経営者になりたいという強い情熱を感じました。笹原さんが経営者として描く未来を、co-ba shibuyaも応援し続けていきます。
[Profile] 笹原 信太郎
Enbowl株式会社大学在学中にfreee株式会社で「会社設立freee」の法人セールス、Uber Japan株式会社で「UberEats」の立ち上げに参画し、Enbowl株式会社を設立。
デジタルガレージ主催のアクセラレータプログラム「Open Network Lab」に採択され、読みたい本を人から探すコミュニティアプリ「Booket」を運営中。
また、ブロックチェーン技術をビジネスやプロダクトサイドから理解する非エンジニア向けのブロックチェーン勉強会も定期的に開催し、800名以上が参加するコミュニティに成長。
HP
https://enbowl.net/
SNS
https://twitter.com/tierheim0101
サービスURL
Booket
https://apps.apple.com/jp/app/booket/id1478230578
CryptoBowl
https://cryptobowl.connpass.com/