世の中にある「豊かさ」を再定義する挑戦。社会に新たな評価軸を取り入れるコンサルティングファーム |ケイスリー株式会社 代表取締役 幸地正樹 / CCO 落合千華

  • 2019/01/07

お金だけではない社会の「豊かさ」を可視化し、再定義するのが私たちの仕事――。

ケイスリー株式会社は「社会的インパクト評価」の考え方に基づき、企業や行政、NPOなどの非営利組織による活動の成果を可視化する仕組みを作っています。2016年3月に創業した同社は、起業したころからco-ba shibuyaとともに歩みを進めてきました。

今回は、代表取締役CEOの幸地正樹さんと、取締役COOの落合千華さんに、起業の経緯や、co-ba shibuyaに入居した理由、これから目指す未来について話を伺います。

「社会的インパクト」を可視化して未来を変える

ーー「社会的インパクト評価」とはどういうものなのでしょうか。

幸地:社会的インパクト評価は、世の中にあるさまざまな活動が生み出す「社会的価値」を見える化し、検証・評価することで、より効果的な変化を加速させる取り組みです*)。
ケイスリーでは、社会的インパクトを可視化するための評価軸や、効果を測定するのに必要な「事業の成果とは一体何なのか?」といった部分の設計などを行っています。

*)社会的インパクトとは、短期から長期の変化を含めて、事業や活動の結果として生じた社会的、環境的なアウトカムと定義されている。社会的インパクト評価イニシアチブより

 


▲ 社会的インパクト評価のイメージ 出典:ケイスリー

 

ーーたとえば、最近ではどのような取り組みをされているのでしょうか。

落合:いくつかありますが、ソーシャル・インパクト・ボンド(以下、SIB)事業として、大腸ガン検診の受診率向上に関する事業を八王子市や広島県と進めています。

ーーSIBについてもう少し詳しく伺えますか?

幸地:SIBは、行政が民間資金を活用して社会課題解決の事業を行う、成果連動型の仕組みです。社会的インパクト評価により事業者の生み出す社会的価値(成果)を可視化するだけではなく、可視化された社会的価値(成果)に対してさらに金銭の支払いを紐づける成果連動型の官民連携の仕組みの1つという見方もできます。

日本ではまだ珍しいかもしれませんが、実は経済産業省でも2015年から導入に向けた動きが始まっています。実行者は民間の資金やノウハウを活用して社会課題解決型の事業を行い、行政は事前に設計された事業の「成果」に応じて成果報酬を支払います。

ーーなるほど。事業の「結果」ではなく、「成果」に応じての報酬支払いなんですね。

落合:はい。社会課題の解決は、複数年かけて「成果」が見えることがほとんどです。「成果」に応じた支払いだと、実行者に資金が提供されるまでに数年かかり、事業を継続させるのが難しくなってしまいますよね。しかし、「どんな成果が出るのか分からない」状態で委託してしまうと、行政の資金が無駄になってしまう可能性も否めません。

SIBでは、民間の資金提供者から実行者へ事前に資金提供を行うことで事業を運転できる状態にしつつ、私たちのような第三者が事業の過程も含めて「成果」を設計・測定することで、行政からの報酬支払いにつなげていくという仕組みを構築しています。


▲ SIBの概念図 出典:ケイスリー

ーー社会課題の解決を加速させることができそうな仕組みですね。八王子市での取り組みは、具体的にどのような事業を行ったのでしょうか?

幸地:八王子市は、「ガン検診の受診率をもっと上げたい」という課題を持っていました。以前からガン対策に力を入れており、検診の受診率も全国平均より高い状況だったのですが、何をやっても受診をしてくれない層がいたんです。この課題を解決するための事業を外部に委託していたのですが、これまでの成果指標は「ハガキを送付した数」になっていたんですね。しかし、これは本質的ではありません。

本当の目的は「検診を受けること」ではなく、「健康に長生きしてほしい」だったり、「ガンを早期発見することで、20年以上にわたって日本人の死亡要因第1位となっているガンの死亡者を減らすこと」です。ケイスリーではそうした本当の目的を探りつつ、SIBを導入するための成果指標の設計や関係者の合意形成などを進めました。

「日本に必要なことだったから、起業を決めた」

ーーケイスリーが取り組まれていることがだいぶわかりました!幸地さんと落合さんは、どうしてSIBに関心を持たれたのですか?

幸地:外資系のコンサルティング会社に勤めていたころの経験がきっかけでした。私は外資系の会社に勤めていたのに、英語が苦手で(笑)。TEDを見ながら、英語の勉強をしていたんです。その中で偶然、SIBに関するスピーチを見て「日本でも必要だ」と思いました。

落合:私の場合、行政と事業者、資金提供者などの関係者全員が目の前のことではなく、将来を見据えた成果志向に変わるためのツールだと感じ、衝撃を受けたことを覚えています。

――ありがとうございます。そこからなぜケイスリーを立ち上げたのでしょうか?

幸地:最初は仕事に絡めてSIBの普及に携われたらと思っていたのですが、なかなか順調に進みませんでした。そんなときに、日本財団がSIBを国内で推進していくことを発表しているのを知り、ボランティアでその活動にも参加してみることにしたんです。

落合:当時は独立する気がなかったんですよね、幸地さん。

幸地:はい(笑)。しかし、有給を使い切り、国内でSIBのプロジェクトを動かせる人材が足りていないという状況に直面する中で、周囲に「独立しなよ」と言われたりもして。いろいろと迷った末に、独立してケイスリーを立ち上げることを決めました。



――起業にはこれまでと違うリスクもあると思います。葛藤や不安はなかったですか?

幸地:「失敗しても、何とかなる」くらいの感覚でしたね。しかし、落合をはじめ、社員を雇い始めたときからは大きな責任感を感じるようになりました。

ーー落合さんは、いつ頃から幸地さんと一緒にお仕事をされているんですか?

落合:私は慶應義塾大学の研究員として、日本財団のプロジェクトに参加していました。そこで幸地さんと知り合い、ケイスリーを創業した2016年は業務委託としてサポートしていたのが最初ですね。2017年から社員、2018年にはCOOとなっています。

ーーもともと社会的インパクト評価には興味を?

落合:いえ。以前は外資系メーカーの研究開発職やコンサルタントとして働いていました。その中で、「この仕事は本当に社会のためになっているんろうか?」という疑問があったんです。より社会的意義のある仕事をしたいと考えたときに、慶應義塾大学でSIBに関する研究ポストを募集する情報を見て飛び込んだのが始まりですね。業界としては未知でしたが、理系だったのでリサーチはできるし、研究なら手伝えると思い、関わるようになりました。

――現在は組織としてどのくらいの規模なのでしょうか?

幸地:今有給で関わっているのは11名で、フルタイムで働いているのは3名。残りは兼業で関わってくれています。オックスフォードの客員研究員や他の企業で役員をやっている者、大学の研究者などさまざまですが、それぞれ「情熱を注げる好きなもの」を持っています。

落合:例えば、私は文化芸術振興に関心が強いです。他のメンバーには里山保全やデータサイエンス、ブロックチェーンに関心がある人がいたりするのもケイスリーの特徴ですね。

お金だけではない「新しい豊かさ」を作る

――co-ba shibuyaには起業時から入居されています。コワーキングスペースは他にも複数あると思いますが、入居の決め手は何だったのでしょうか?

幸地:いろいろなコワーキングスペースを見学しましたが、co-ba shibuyaはかしこまったオシャレ感がなく、会員の方が自然体でいる印象だったのが大きな決め手になりました。

――co-ba shibuyaの入居者のみなさんはたしかに自然体ですね。実際に入居されてからはどのように感じていますか?

落合:私は人見知りなんですけど、co-ba shibuyaはスタッフの方がとても明るくて、会うといつも笑いながらお話できるのが嬉しいです。他の会員さんと比べて、co-ba shibuyaにいる頻度は多くないと思うのですが、行くとコミュニティマネージャーの方がいつも声をかけてくださったり、会員の方を紹介してくれたりするので、場の温かさを感じますね。

幸地:私たちは自治体の方と仕事をするので出張も多いのですが、全国のco-ba拠点を活用できるのが助かっています※。自社オフィスを持つよりも経費を抑えられますし、一人ではないと感じられるので、「規模が小さいスタートアップだから」利用しているわけでなく、今は「co-baという場で」会社を成長させたいという思いが強いですね。

co-ba NETWORK:シェアードワークプレイス「co-ba」は、直営店である「co-ba shibuya」と「co-ba jinnnan」以外にも、パートナーとともに全国に拠点を広げています。co-ba NETWORKの会員の方は、全国のco-baを無料で利用することが可能です。

ーー最後に、今後の展望や実現したい未来を教えてください。

幸地:「社会的インパクト」を当たり前のように意識する人を増やしたいです。そのためにも、お金だけにとらわれない、新しい豊かさを作ることが私たちの仕事だと思っています。
事業を行う企業やNPOも、自分たちの「成果」が見えてくると、「もっと頑張りたい」という気持ちになりますよね。「お金がもらえて良かった」ではなく、みんなが同じ方向を向き、「成果を出すこと」に意味があると感じてもらえるよう事業に取り組んでいきます。

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終始朗らかに、穏やかにお話してくださった幸地さんと落合さん。社会的インパクト評価という言葉の正しい意味や、本質的な取り組みを広げていくことも自分たちのミッションだと仰る眼差しには、優しくも確かな意思を感じとることができました。

co-ba shibuyaのみならず、全国のco-ba拠点を活用しながら展開していくケイスリー。情熱を持った仲間とともに、日本に新たな価値観を浸透させていく注目の企業です。


[Profile] 代表取締役 幸地正樹 / CCO 落合千華

ケイスリー株式会社

幸地正樹
ケイスリー株式会社 代表取締役
大学卒業後、2007年にPwCコンサルティング合同会社へ入社。主に中央省庁や地方自治体など官公庁に対する戦略策定支援、予算評価や調達・事業者評価支援等の業務に10年従事。ソーシャル・インパクト・ボンド等の成果連動型委託契約や社会的インパクト・マネジメントなど、成果向上に向けた手法の研究・導入支援を行うケイスリー株式会社を2016年に設立。
琉球大学非常勤講師、GSG(Global Social Impact Investment Steering Group)国内諮問委員会事務局、社会的インパクト評価イニシアチブ共同事務局。
沖縄県那覇市出身。
HP:https://www.k-three.org

落合千華
ケイスリー株式会社 COO 、慶應義塾大学政策・メディア研究科研究科
社会的成果を見える化する評価を通した事業マネジメント支援、および成果を加速する官民連携手法の調査研究や推進に携わる。中央省庁の調査研究事業、行政やNPO等の評価事業に参画経験多数。メーカーでの化学系研究者、経営コンサルタントを経て、社会課題解決促進の基盤づくりを行うケイスリー株式会社に2016年4月設立当初より参画。現在同社 COO、慶應義塾大学政策・メディア研究科研究員および後期博士課程在学中。