一度目の失敗を経て、再び2人で歩き出した起業家。家事分担アプリで目指すこと |株式会社Calano 熊本慎吾 / 山本航

  • 2018/05/07

「もう1度挑戦をするなら、彼と一緒が良いなと思ったんです」 ――。

大学の同級生と起業し、苦楽をともにしてきた二人は、一度目は失敗で解散。もう一度挑戦しようと決意した際に、思い浮かべたのはかつての相手でした。

創業時からco-ba shibuyaに入居し、現在二度目の挑戦として共働き夫婦向け家事アプリ「家事ノート」をリリースした、株式会社Calano社長のの熊本慎吾さんと最高技術責任者の山本航さんに話を伺いました。

お互いの苦手な部分を補完していきたい

2人は大学の同級生とお伺いしました。どのような経緯で出会ったのですか?

熊本さん(以下、熊本):出会いのきっかけは、大学の寮です。僕らは学部も学科も同じで、大学の寮に住んでいたのですが、共通の知人はいても大学3年の冬まで一度も話したことはなくて(笑)。
でも、風のうわさで「山本が起業に興味ある」と聞いたんです。私も高校のときから起業することに憧れがあって、挑戦してみたいと思っていたタイミングでした。山本と寮ですれ違った瞬間に、「一緒にやろう」と声をかけたのが最初の会話です。

印象的な出会いですね。当時、山本さんは声をかけられてどう思いました?

山本さん(以下、山本):びっくりしました(笑)。僕も、以前から起業したいとは思っていたんです。当時は就職活動が始まった頃で、説明会で色んな会社の話を聞いても、しっくりきていない自分がいました。そんなときに熊本から「一緒にやろう」と声をかけられて、挑戦しようかなと。

そのまま、お二人は学生で起業されたんですか?

熊本:いえ、学生時代はいろいろとアイデアを模索していました。大学を卒業してからサービスを始めたんです。その時に手がけていたのは、飲食店のシフト表を自動最適化するツールでした。
でも、飲食店向けのサービスなのに、二人とも知り合いに飲食店を経営している方がいなかったんです。当然、現場の課題やどんなニーズがあるか分からないまま。私は営業を担当していたのに、どう飲食店へアプローチしたらいいか分からず、うまくいきませんでした。

1度目の挑戦は順調な滑り出しではなかったわけですね。

山本:そうですね。事業が上手くいかないと、どうしても会社ってギクシャクしてしまうじゃないですか。ツールを開発して1年半が経った頃、お互いこのままだとダメだということで最初の挑戦が終わってしまいました。

熊本:会社がうまくいかないのは代表の責任ですよね。思い返してみると、上手くいかなかった要因は私のふがいなさが大きかったと反省しています。

一度解散したお二人は、その後それぞれなにを?

熊本:僕はエンジニアとして開発会社に4年ほど勤めていました。自分ひとりでもサービス開発できるように、まずはスキルを身につけようと。「いずれまた自分でサービスを開発したい」という思いは、心のどこかに残り続けていましたね。

山本:私も色々な会社で働きながら、プログラミングスキルを磨きました。スキルが身についたと実感できたら、起業に挑戦したいと考えていましたね。

二人とも起業に対する思いは、ずっと消えていなかったんですね。

山本:はい。何気なしに何をしているのかなと思い、3年ぶりに熊本に連絡をとったことが今2人でやっているきっかけです。

熊本:ビックリしましたよ。山本はSNSを更新しないタイプだったので、何をしているかわからなかったですし、何なら東京にいることも知らなかったので(笑)。会っている話の中で、もう一回二人で起業しようという話になりました。

なぜ一度失敗を経験しているにも関わらずまた2人で起業しようと考えたんですか?

山本:学生のころから、熊本は判断力と行動力がある人だとは思っていて。もう一度、起業するなら、彼と一緒にやりたいという思いがどこかにあったんですよね。

熊本:私もエンジニアとして4年間働く中で、山本のスキルの高さは身に染みて分かっていました。そこで声をかけられたので、お互いの苦手な部分を補完できたらなと。

そこから2回目の挑戦が始まったわけですね。co-baに入居したきっかけは何でしたか?

熊本:入居している方をTwitterで何人もフォローしていて、彼らのTwitter上でのやり取りを見ていて、いいコミュニティなんだなという印象がありました。勤めていた会社を辞めたタイミングで、実は一度個人でco-ba shibuyaに入居をしていたんですよ。

今回出戻りという形になるんですね。当時と今で変わったことはありますか?

熊本:会員同士のつながりが強いことは、変わらないですね。私はプロレスが好きなのですが、co-ba shibuyaには「プロレス部」というslackのチャンネルがあり、そのメンバーで飲み会を開催することも。

夫婦や同棲カップルが気持ちよく家事分担を

家事ノートは、どのように生まれたのでしょうか?

山本:元々、個人で家事分担のWebサービスの開発を進めていて、法人化してそのサービスの開発に本腰を入れることになりました。

熊本:たしか、共働きが原因で、ケンカになったことがきっかけで作り始めたんだよね。

山本:そうそう。家事分担でケンカになって。自分では「家事をやっている」と思っていたので、何でケンカになるのかがわからなくて。

熊本:エンジニアらしく、ちゃんとログをとって分析してみたんだよね。

山本:そう。家庭内の家事を全てノートにまとめて数値化してみたら、妻のほうが負担が大きいことがわかって。その結果を見て、同じような課題を抱えている家庭は他にもあるのではないかと考えたのがきっかけですね。

個人で開発していたサービスを会社として開発することに抵抗はなかったんですか?

熊本:なかったです。山本と話していて、このサービスが社会にとって必要と思えたので。

山本:(日本の)人口が減る中で、労働力減少の対応策としてAI(人工知能)や移民政策、女性の社会進出が注目されています。女性の社会進出が進む中で、「女性が家事をやるのが当たり前」という考え方は変化していくと思うんです。

熊本:夫婦や同棲カップルが気持ちよく家事分担ができるようにと考え、Calanoとしてサービス開発を続けることにしました。

家事分担は社会的な課題でもあるので、関連サービスはいくつか出てきています。家事ノートの特徴はどういったところになるのでしょうか。

山本:現時点ではあまり競合は意識していなくて、関連サービスの開発者たちはともに市場を盛り上げる仲間だと考えています。

熊本:あえて、他の家事分担サービスと差別化ポイントを挙げるならば、私たちはアプリに家事をするほどレベルが上がるといったゲーミフィケーション機能を取り入れています。家事が楽しくなれば、と考えていて。

山本:家事って誰もやりなくないですよね。お皿は汚いし、洗濯物はたまるし。どうせやるなら、楽しくできる仕掛けがあったほうが良いかなと考えて、この機能を導入しています。

その他にこだわったポイントなどはありますか?

熊本:自分の家庭以外の家事分担レベルも分かる「ソーシャル機能」を取り入れました。他の家庭とも競うことができるので、よりアクティブに使ってほしいと思っています。
直近では、「目標設定機能」も追加しましたね。分担する割合の目標を設定し、達成するために必要なポイントや達成率などを確認できるようになりました。パートナーがどれだけ頑張っているかを見たり、家事を任せたい・休んでほしいときなどに活用してほしいです。

アプリをリリースしてから約3か月が経ちます。サービスは順調に成長していますか?

山本:ダウンロード数は順調に増えてきていますが、その中でもソーシャル機能や目標設定機能のように、アクティブにサービスを使ってくれるような改善に注力しています。継続率が定着した後に、ユーザー数を増やす施策を打っていく予定です。

熊本:Twitterなどをチェックしていると、家事ノートを使うことでその日に行った家事が可視化され、自己肯定感が上がった、という声を貰えて嬉しかったですね。

co-baの特典を利用してサービスのUXを改善

ユーザーにアクティブに利用してもらうための工夫はどのようなものがあるのでしょうか?

山本:ユーザーのニーズを把握するために、ヒアリングは徹底的に行なっていますね。たとえば、家事ノートについてTwitterでつぶやいている方に、公式アカウントでリプライをしたり。そのなかには改善点を10個以上教えてくれた方もいました。

熊本:心強いのはco-ba shibuyaの会員の方ですね。何人かに実際にサービスを利用してもらい、フィードバックを集めています。家事ノートの改善点についてPDFで10枚くらい書いてくださる方もいて、気軽にフィードバックがもらえる環境はありがたいですね。

他にもco-ba shibuyaでは、さまざまな分野の専門家の方に相談できる「advisers5」を利用いただいていますよね。

熊本:そうですね。毎週木曜日の午前中にUX・UIの専門家である安藤幸央さんがco-ba shibuyaに来てくれるので、そのタイミングで色々と相談しています。

山本:私たちは二人ともエンジニアなので、どうしてもエンジニア目線でサービスを開発しがちになります。一つひとつの文言が固い表現になることも多いんです。安藤さんに相談することで、アプリ内やプッシュ通知で使う文言を、より親しみやすい形にすることができましたね。サービスの改善を進めるなかで、定期的に相談できるのは心強いです。

家事分担を平等にし、夫婦の仲を改善していくサービスでありたい

家事ノートの今後の展望についても教えてください。

熊本:共働き夫婦における家事分担は、女性が8割で男性が2割とされています。家事ノートの普及によって、その割合を平等に近づけるだけでなく、夫婦のコミュニケーションが活性化したり、夫婦仲を改善していくツールにもなれたらいいなと思っています。

山本:家事は、日本だけでなく世界中のあらゆる場所で発生するタスクです。将来的には多言語化して、さまざまな国の人にも使ってもらえるアプリにしていきたいですね。

「家事の未来」を考えたときに、ルンバのように家事を自動化するツールが出てくるかもしれません。家事ノートは、そのような変化にどう対応してきますか。

熊本:私たちも家事の自動化に貢献できればと考えています。家事ノートでは、家庭内の家事分担に関するデータを多く集めることができます。そのため、そのデータを活用することで、家事負担を減らすようなソリューション開発にも取り組みたいですね。

co-ba shibuyaの活用方法について、要望や考えていることがあったら教えてください!

熊本:立ち上がったばかりのスタートアップが、シード投資家と出会う場面がもっと増えたら更にいいなと思っています。今は受託開発をしながらサービス開発に取り組んでいるため、資金調達をしてアクセルを踏むタイミングに備えたいと考えています。

山本:会員同士で気軽に話せるコミュニティがあり、それぞれの分野のプロフェッショナルから刺激を受けられるので、すごく満足しています。要望があるとしたら、ずっと座っていると頭が働かなくなってくるので、運動する器具が欲しいことですかね。

熊本:それは自分で買おうよ(笑)。

一度は失敗しつつも、お互いを信頼して挑戦を続ける2人。advisers5などco-ba shibuyaをフル活用している2人の新たな挑戦を、私たちとしても応援しています!


[Profile] 熊本慎吾 / 山本航

株式会社Calano

熊本慎吾
代表取締役。
長崎県出身。1988年生まれ。
東京海洋大学卒業後に大学の同級生である弊社CTOの山本とCalanoを創業する。
B向けのサービスを営業担当で展開するが上手くいかず1年半で解散。
その後、株式会社りーふねっとなどの開発会社を経験して
エンジニアとしてのスキルを身につける。
2016年11月に株式会社Calanoを設立して山本が再び参画。

山本航
CTO 最高技術責任者。
複数のベンチャー企業を渡り歩き、創業期のプロダクト作りに携わる。
昨年6月から株式会社Calanoに参画し、家事アプリの作成などに従事している。

HP:http://calano.jp/
家事ノート:https://lp.kajinote.jp/