「子どもと過ごす毎日の中で、くじけそうになったり、逃げ出したくなったりしたとき、ふと誰かに自分の話を聞いてもらいたくなったことはありませんか? そんなママたちが『聴く』を通してつながり、支えあうことが必要なんです」
NPO法人リスニングママ・プロジェクト(リスママ)代表理事の足立さとみさんはこう語ります。リスママは、小学生までの子どもを育てる母親を支援するプロジェクト。「聴く」トレーニングを受けたお母さんに、お母さんが日々の悩みや考えていることを20分間相談できるというサービスを提供していて、これまでに500人以上の方が利用したそうです。
2018年9月には任意団体からNPO法人となり、全国のお母さんを救うため、新たな一歩を踏み出したリスママ。なぜ足立さんはリスママに関わるようになったのか、今後の展開はどのように考えているかを、co-ba shibuyaに入居した理由も併せて、足立さんに伺いました。
――リスママがどのようなコンセプトで運営されているのか教えてください。
足立さとみさん(以下、足立):「お母さんがお母さんの話を聞く」という、コンセプトを掲げています。乳幼児の子どもを育てているとき、お母さんは家の外になかなか出ることができないですよね。子どもと2人きりでいることが多く、旦那さんが疲れて帰ってきた後も子どもの話をすることが多い。自分のことを話す機会がなくなってしまうんです。
そこで、オンライン会議システムを活用して、お母さんたちが気軽に話せる場を作ろうとしたのがリスママの始まりでした。傾聴の訓練をしたお母さんが聴いてくれます。1回20分、無料で利用できるのが特徴です。
――無料で利用できるんですね。
足立:はい。幅広いお母さんたちに活用してほしいという思いがあるのと、利用者からお金をいただくモデルにしてしまうと、対等に話してもらうことが難しいと考えています。
――リスママは足立さんが立ち上げられた?
足立:私を含めた3人のお母さんが集まり、立ち上げました。その中の一人がカウンセラーとして、東日本大震災の直後に「何かができないかな」と考えて、オンラインで話を聞くことを始めたのが今につながっています。実は私もその際の利用者でした。
当時は横浜に住んでいて、1歳になったばかりの子どもがいました。育児休暇を終えて、会社に復帰してから2週間くらいとタイミングが悪くて。原発問題も騒がれる中で、子どもを保育園に預けて、仕事に行くのが正しいかどうかを悩んでいました。
当時、私は化学系メーカーの研究職として働いていて、誰もいない昼休みの会議室で話を聞いてもらいました。何を話したかまでは覚えていないのですが、こんなにも気を張りながら生きていたのかと気付けて。笑って過ごしたいと思えるようになったんです。
――自分の気持ちを正直に話したことで、客観的に自分を見られるようになったんですね。
足立:はい。その後、カウンセラーのメンバーが20分間の傾聴を続けていくうちに手応えを感じて。被災者に限らず、全てのお母さんに活動を広めようとしました。そのときに私も声をかけてもらい、徐々に現在のリスママが生まれていきました。その後、私は研究職を辞めて、リスママ専属のスタッフとして活動をさせてもらっています。
――安定した会社員生活を辞めることへの抵抗感はありませんでしたか?
足立:会社の仕事は好きだったのですが、辞めることの抵抗はなかったです。なぜかというと、小学生になった子どもが急に「学童に行きたくない」と言い始めて。目に見えて口数が減ったり、笑顔も減る状況を見たとき、私の中で会社員を続ける意味がなくなりました。
子どもの笑顔を優先させようと思い、夫婦で少し話し合いをして、すぐに会社を辞める決断をしました。もちろん不安はありましたが、自分のキャリアは何とでもなるだろうと、楽天的に思っていました(笑)。なので、リスママに専属で働くためではなく、子どものために会社を辞めたのが先ということになります。
――リスママは最近NPO法人になりましたよね。その理由を教えていただけますか?
足立:最大の理由は、リスママの活動をより普及させたいと考えたからです。2014年に任意団体として活動を始めてから、利用者が増えると同時に、聴くできる人も少しずつ増えていきました。現在はお休み中の方も含めて、計13人の方が携わっています。
取り組んでいる中で分かったのは、この聴くというスキルが、どのコミュニティに所属をしたとしても役に立つスキルだということでした。家族や夫婦、職場での関係が良くなり、周囲を幸せにすることにつながったという声が、複数あったんです。
そのため、子育てをするお母さんたちが聴く力を持つことは、多くの子どもたちが健やかに育ち、いずれは「世界平和にもつながっていくんだ」と思ったことが大きな理由でしたね。
――聴く力を持つことで、私生活にも良い影響が出てくると。
足立:はい。もう一つ、リスママはオンライン上で完結してしまうので、地方や海外に住んでいる方が利用しやすいことも、より普及させたいと思った大きな理由でした。
旦那さんの仕事の関係で海外や地方で暮らすお母さんは、悩みをはき出す環境が少ないですよね。中には、自殺をしてしまうといった痛ましいニュースを見ることもあります。せっかく無料で提供しているのに、サービスを届けられないのはもったいない。そのためには法人化をすることで組織として信頼を獲得し、より普及させたいという思いがありました。
――聴く力というのは、スキルとしてなかなか定義しづらい部分もあるように感じるのですが、リスママとして大事にしているポイントなどはありますか?
足立:コーチングやカウンセリングとなると、問題の原因を見つけて解決しにいくような形をとると思うのですが、リスママは違うスタンスをとっています。
基本的には、利用者の気持ちを整理して、どこを目指したいのかが見えることを目指しています。そのためには、「大事にしている宝物を一緒に探すように」聴くことが重要です。そのクオリティを維持するため、聴く側を育てるための講座を丁寧に行うようにしています。
――サービスの継続性という意味では、どのように考えられてるか教えてください。
足立:これまでは、聴く側を育てる「リスナー講座」の受講費が中心でした。しかし、クオリティを維持するために少数で行っているため、継続性という点ではまだまだ厳しいのが現状です。法人化をしたので、今後は行政や企業向けのサービス提供も検討しています。
――法人化するタイミングで、co-ba shibuyaに入居してくださいました。入居をされたきっかけについて、教えていただけますか?
足立:登記をする場所を探していたときに、たまたまあるイベントでco-ba shibuyaの方が登壇されているのを見て。すごく面白い「場」だなと思ったことを覚えています。
――「面白い」とはどのあたりが?
足立:いくつか登記ができる場を探してはいたのですが、他は「登記ができるだけ」だったんです。co-ba shibuyaは、誰かに相談ができたり、困ったときに手を貸してもらえそうだと思いました。私たちはお母さんだけの集団で、得意不得意が非常に多いので(笑)。
――実際に入居をされてからは、どのように感じていますか?
足立:会員さんの中には、さまざまなスペシャリストの方がいるので、困ったときに何かを相談したり、家で仕事をしているだけでは分からない流行を知れるのが嬉しいです。
他にも、登記をするときの書類の書き方で分からないことがあったときに、co-ba shibuyaのイベント「士業3人衆のOn the money!〜起業ファイナンス編〜」で出会った司法書士の会員さんに相談に乗ってもらったこともありました。
――リスママが考えられている今後の展開を教えてください。
足立:リスママを始めてから、とても嬉しかったことの一つなのですが、旦那さんの仕事の都合で地方で暮らすことになった利用者の方に、「新しい環境で辛いことがあっても、リスママに仲間がいるから大丈夫」と言ってもらえたことがありました。
法人化をしたので、今後は子育て支援を行う団体や行政、企業と連携して、このようなリスママを通したお母さんの支援コミュニティをより広げることができたらと思っています。
――長期的に実現したい未来などはありますか?
足立:「聴く」ことを価値にして、支援の幅を広げていけたらなと。たとえば、学校や塾は、お母さんが子どものことを相談する場所にもなっていて、先生の負担が増えていますよね。そんな状況を、リスママが何らかの形でサポートしていけたらと思っています。
――最後にco-ba shibuyaの活用方法で、要望などがあったら教えてください!
足立:聴く側になったお母さんの中には、地方で暮らす人も多いです。今は専任の私だけがco-baを利用できるのですが、全国のスタッフも近くの拠点を活用できたら嬉しいですね。
子どもがきっかけで会社を辞めたことに対して、「絶対に子どものせいにしない。あなたのお陰で、こんなに楽しい人生になったと伝えたい」と足立さん。
「子どもがいたから自分の人生を無駄にしたではなく、子どもがいたことでリスママと出会い、人生を豊かにしていけるお母さんを増やしたい」と力強く語る姿が、ステキでした。
[Profile] 足立さとみ
NPO法人リスニングママプロジェクト 代表理事1976年 鹿児島県鹿児島市生まれ
京都工芸繊維大学院 応用生物学専攻 修士課程修了
新卒で、化学系メーカーに就職。技術営業、経営企画、研究員を歴任後2017年に退社。2018年独立。
普段は、小学生と年長男児二人の母。生きる力を育む子育て実践中。
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