Nearbyの世界が当たり前になるサービスを、自分の手で創りたい |株式会社ローカルグラフ Co-Founder 飯坂あかね

  • 2014/08/21

今回は、co-baを拠点に、「PLACEHUB」というメディアを通じてローカルなお出かけ情報を提供する、株式会社ローカルグラフの飯坂あかねさんにお話を伺いました。「仕事ではなく、ライフワークという感覚」と語る飯坂さんの言葉からは、仕事と生活を充実させるヒントを感じ取ることができます。

”Nearby”の世界をつくる

──はじめに、今のお仕事について教えてください。

PLACEHUB(http://placehub.co/)というサイトの運営を主に手がけています。

PLACEHUBは、ローカルなお出かけ情報の提供が軸となっているメディアです。ローカルというのは、「地方」というそのままの意味ではなくて、ユーザーにとって身近な地域や行動圏だと考えています。その括りも、「東京」という大きなものではなくて、例えば「渋谷」「池袋」とか、その人にとって身近な行動圏のようなもの。それを、シーンやテーマなど「意味」を持った情報の形にして、エリアと掛け合わせた記事を提供しています。

意味を持った情報というのは、例えば、「東京の美術館」というまとめは分かりやすいけれど、本当に「東京の美術館」を知りたい人にしか届かないし、面白くないですよね。そこに、「デートで行くなら」とか「親子で行くなら」とか、「夏に行きたい涼しいスポット」という情報が付加されれば、具体的なシーンが喚起されますよね。そういう、ふと目に入ってつい出かけたくなるようなお出かけ情報を、日々提供しています。

【PLACEHUBの記事一例。そのエリアをどう利用するのが楽しいか、どういう人が楽しめるのかが一目でわかり、つい出かけたくなってしまう。】

 

2年前に会社を立ち上げて、メディアの運営を始めてから1年半。共同創設者の中村はエンジニアなので、メディアの企画や制作などを中心に担当しているという感じです。会社として目指しているのは、「”Nearby”の世界をつくる」ということ。”Nearby”っていうのは、自分の近くの情報が、自然に手に入ったりするような状態ですね。スマートフォンが普及して、そういうことが少しずつできるようになっている今、それが「当たり前」な世界ってどうしたら実現できるんだろう? ということを会社設立の段階から考えていました。

その過程で、そもそも、ローカルな情報が世の中にあんまりないな、と感じたんです。そのため現段階では、そうした情報を「作る」というところから始めています。今後、もっと違う形で情報を提供できないか、もっと簡単に身近な情報が手に入る仕組みを作れないか、という風に考えていきたいと思っています。

資金も人員も全くない状況で勝負してみたい

──会社に属する形ではなく、自分でメディアを創ろうと思い至ったきっかけはありましたか?

まず経緯としては、大学を卒業してから製薬会社に入社して、3年後にリクルートに転職したんです。最初に製薬会社に入ったのは、やっぱり元々、世の中に新しいものとか、新しい価値を創り出すということに興味があったから。大学では獣医学科だったので、その道において新しいものを創り出すといえば、薬を作ることだと順当に思い当たったんですね。

ただ、実際に入ってみて分かったのは、1個の薬を作るのには10年くらいかかるのに、それが成功する確率は10%も無いということ。自分が作った薬が世の中に出る可能性は、すごく低いんです。そこでやっぱり私は、自分の作ったサービスが世の中に出たり、それが人に使われる様子が見たい、という風に思いました。それが最初の転職のきっかけですね。

リクルートでは全社の新規事業コンテストに通ったことで、希望していた新規事業の立ち上げが実現しました。そのときに一緒にやっていたのが、今の共同経営者の中村です。その時は新しいオンライン広告のあり方を提案できないかと考えていたのですが、そのように新しいネットサービスを考え続けて行く中で、「ローカル」とか、”Nearby”の領域に可能性を感じ始めました。マーケットとしても魅力がある上に、ユーザーに行き届いている情報もまだ十分じゃない。これからどんどん変わって行くし、必要とされる領域なのではないか、と感じました。そこで、ローカルグラフで、これを軸にしたサービスを立ち上げようと思ったんです。

なぜ起業という形を選んだのかというと……新規事業を立ち上げることって、海に溺れるような感覚に近くて。リクルートでその大変さを経験してきているので、そういう意味でのハードルは低かったんです。しかも、会社の中で、資金も人員もある状態で新しいものを創り出すというのは経験させてもらっているので、それが全くない状態で勝負してみたい、という風に思ったんです。それにもし失敗したとしても、プロセスをきちんと踏んだ上での失敗なのであれば、その先、どこでも必要とされるだろうと思っていて。だから、ハードルはそんなに感じていなかったですね。


 

新しいサービスを一から作るのは、まるで赤ん坊を育てるかのよう。

──メディアを一から創る上で苦労した所、また、やってよかったと思える所を教えてください。

苦労したこととしては、”Nearby”の世界がくる、という風に感じていても、「それがどうあるべきか」というのは分からないので、最初はトライアンドエラーの連続だったことですね。また、メディアの方向性や、情報の提供のあり方もトライアンドエラーで見つけて行くしかないので、最初の1年くらいは、本当に「どうしよう?」となることが多かったです。

良かった所としては……やっぱり自分たちが直で全てに関われる、というのは面白いです。過去に誰かが作って、すでに定着したメディアをさらに伸ばして行くというのも、それはそれで面白いのですが、本当に何も答えがない状態から運営して、それが回るようになるプロセスの方が何倍も面白い。すでに少年、青年の段階ではなく、まだ何もわからない赤ん坊を育てるのに近いというか。経験してみて感じた面白さですね。

──これから、PLACEHUBをこうしていきたい、という展望はありますか?

まだPLACEHUBは情報提供のひとつの形に過ぎないので、これからもっと、ユーザーにとって身近な情報をより適切なタイミングで提供するとか、そういった面を考えていきたいと思います。歩いていて目に入るのと同じくらい自然に、その人にとって意味のある情報が入ってくるようになると面白いですよね。それによって、「ちょっと行ってみようかな」と思ったりとか、身近の知らなかった素敵な場所を発見できたりとか、そういったことがどんどん広がって行くといいなと思います。

また、今一緒にやっている若い子たちは、普通の会社で出会わない優秀さがあるので、彼らともっと新しいことを模索して、可能性を広げていけたらと思っています。普段の仕事は地道な作業の積み重ねですが、「次にどうするか」という検証を積み重ねて行って、次にやるべきことを見定めていけば最終的に想像もつかないようなものが出来ていくんじゃないでしょうか。それを見る日がとっても楽しみですね。

──co-baを拠点にされていることで、会社にとってプラスだった事はありますか?

やっぱり人の繋がりですね。PLACEHUBのPVがある程度伸びて来た2013年の末に仲間を増やそうということで、メインで関わってもらうメンバー2人をさらに迎え入れたのですが、どちらもco-baの繋がりから。そういう意味で、co-baにはすごく縁があったと思いますね。

また、スタートアップの方々と話したりして、「こういうサービスを作ろうとしている人がいるんだ」というのを知ることができたり、困ったときに、こういう事が出来る人知りませんか?と紹介していただいたり……。イベントを機会に知り合いになって、そこから繋がりが増えていくのは楽しいです。

──最後に、飯坂さん自身の今後の展望を教えてください。

仕事は、「やらねばならないこと」という感じではなくて。確かに旦那さんや家族と過ごす時間はまた別ですが、基本的にプライベートとの境はあんまりないんです。このサービスを作る事自体、楽しんでやっていることなので。

ユーザーが伸びたり、自分が考えたものがちゃんと見てもらえているという実感が一番嬉しい瞬間。なので、新しいものをつくって、それが世の中の人からどんな反応が得られるかを見るということの繰り返しが、一番のライフワークですね。それを今後も続けて行けたらと思います。

──ありがとうございました! 飯坂さん、そしてローカルグラフの皆さんの今後のご活躍を楽しみにしています。

(文責:野田侑里)


[Profile] 飯坂あかね

株式会社ローカルグラフ Co-Founder

東京大学卒業。2004年、三共株式会社(現:第一三共株式会社)に入社。2006年、株式会社リクルートに入社。事業開発室、カーセンサーを経て、社内起業制度を利用しリクルートのオンライン広告を起点としたリードジェネレーション事業を立ち上げ黒字化することに成功。2012年7月、株式会社ローカルグラフを設立。現在は地域密着のお出かけ情報サイト「PLACEHUB」(http://placehub.co/)を運営。