「パワフルで行動力がある。熱い想いをもちながら、ユニークさも忘れない。co-ba shibuyaの姉御的存在」
彼女を表すとしたら、こんな表現になるのではないでしょうか。
彼女の名前は、界外亜由美(かいげ・あゆみ)さん。mugichocolate株式会社代表取締役として、コピーライティング等を通したクリエイティブ制作事業を行いながら、産前産後の母親をサポートする自社事業「MotherRing」を運営しています。
界外さんは2012年に一度フリーランスとしてco-ba shibuyaに入居。その後、2018年に起業したタイミングで、再び戻ってきてくれました。co-ba shibuyaを昔から知るメンバーの一人として入居当時の思い出や、これから目指す未来についてお話を伺いました。
——mugichocolateの事業では、クリエイティブ制作事業を手掛けられています。具体的には、どのようなことをされているのですか?
界外:企業の商品やサービスの企画、ブランディング、プロモーションなどを行っています。これまでに生活雑貨やアパレルの商品企画・クリエイティブディレクションや、子育てに関わる商品のバイラルムービーなど、様々な企業の案件をお手伝いしてきました。
——クリエイティブ制作の業界に入ったきっかけは何だったのでしょうか。
界外:大学卒業後、就活情報誌で「クリエイティブ職種を募集」という見出しを見つけました。見た瞬間、なんの根拠もなく「私に向いているに違いない!」とビビッときて(笑)。掲載されていたWeb制作会社にすぐに応募しました。
その会社はWebデザイナーを募集していたのですが、私は全くの未経験だったんですね。そこで、本を見ながら見よう見まねでホームページを作成して、面接を受けに行きました。
——すごい行動力ですね……!
界外:やってみたいと思ったら、すぐに行動に移すタイプなんですよね。
でも、面接では「ホームページ見たけど、ひどいね」と開口一番に言われました(笑)。不採用か……と思いきや、ホームページに載せていた私のコラムを見てくれて。「君の文章は素敵だから、コピーライターをやったらどうか」と言ってくれたんです。
もともと書くことは好きだったので、その一言で入社を決意しました。その後も数社の広告制作会社でキャリアを重ね、企画やディレクションを経験して。子どもが生まれたタイミングで、より働き方の自由度が高いフリーランスに転向したんです。
——現在は、どのような商品やサービスのクリエイティブ制作を行っているのですか?
界外:業界は絞らずに「一緒にやりたい」と言ってくれた方々の役に立てたらと思っています。ただ、仕事をする上で「面白いと思えるかどうか」は重要な基準かもしれません。
——「面白い」を基準にしている理由は何かありますか?
界外:私、お笑いがすごく好きなんですよ。高校生の時には、好きなお笑いコンビのネタを書き起こして、どこが面白いか分析していたくらい(笑)。以前、私が編集長をしている「シブヤ散歩新聞」の企画で忍者スポットをめぐった際には、意気揚々と忍者のコスプレをして原宿の街を歩きました(笑)。そういったお笑いのような「面白さ」だけでなく、まだ世の中にない新しい取り組みや、人を幸せにする商品やサービスを伝えていくことも、「面白さ」の一部だと思っています。
編集長を務める「シブヤ散歩新聞」の企画で忍者コスプレをして渋谷を散歩する界外さん。東京商工会議所渋谷支部が運営するこのメディアでは、渋谷区内の魅力的な場所の情報を提供している。
——もう一つの事業であるMotherRingはどのような事業ですか?
界外:いま、母親に寄り添うケアワーカーへの支援事業を立ち上げ中です。産前産後の女性は、ホルモンバランスが急激に変化します。そのため、体力的にも精神的にも非常に大変なんですよね。そうした時期に母親を支えるケアワーカーの存在を、社会に広めていきたいと思っています。
——なぜ産前産後の母親に焦点をあてた事業を始めたのでしょうか。
界外:きっかけは、東日本大震災です。震災の後、何か世の中の役にたつことをしたいと思っていたところ、被災地の妊産婦を東京の助産院で受け入れる「東京里帰りプロジェクト」を見つけました。当時、子どもが2歳で産前産後の大変さを身に染みて感じていたので非常に共感し、寄付をすることにしたんですね。
寄付する際にメッセージも一緒に書けるようになっていたので、「クリエイティブ制作の仕事をしているから、手伝えることがあったら言ってほしい」と書いて送ったんです。そうしたら「お願いしたい」と返事がきて。
そこで、産後間もない母親に寄り添い、暮らしを支える専門家「ドゥーラ」を日本に広めようとしている方々に出会いました。彼女たちと様々なプロジェクトを行ううちに、産前産後の母親をサポートする仕組みを整えていきたいと強く思うようになったんです。フリーランスでは展開できる事業の幅に限界があるため、そのタイミングで法人化を決意。mugichocolateを設立することにしました。
——起業した2018年にco-ba shiibuyaに入居していただきましたが、2012年にも一度入居してくださっていますよね。
界外:そうなんです。最初に入居したのは、フリーランスになったタイミングでした。子どもが小さかったので、家では仕事がしづらくて。そんな時co-ba shibuyaのコンセプト「クリエイターのためのコワーキングスペース」(※co-ba shibuya開設前に行ったクラウドファンディングで掲げていたコンセプト。現在は「多様なチャレンジが集まるワーキングコミュニティ」)を見て「私のための場所だ!」とビビッときたんです(笑)。
——当時のco-ba shiibuyaで印象に残っている出来事はありますか?
界外:他の入居者の方にご飯を作ってふるまう「姐さんのお勝手」というイベントを開催していました。入居前は「人とあまり交流するタイプじゃないんです」とコミュニティマネージャーに伝えていたにも関わらず、入居後はそんなイベントを企画していましたね(笑)。
——ぜひ、また「姐さんのお勝手」を開催していただきたいです…!
界外:あのイベント、30人分くらいの料理をつくるので、結構大変なんですよね。でも、楽しいから考えておきます! 他にも、クライアントのWebサイトをつくる案件で、co-ba shibuyaに入居していたエンジニアの方に手伝ってもらったこともありました。様々な形で他の入居者の方との交流がありましたね。
——当時と今のco-ba shiibuyaを比べて感じる変化はありますか?
界外:コミュニティスペースは、メンバーによってがらりと雰囲気が変わるじゃないですか。だから「常に変化している」感覚ですね。それは、多様な人との出会いがあるということでもあります。だからこそ、その時々のco-ba shibuyaを楽しみたいと思っています。
——最後に、これからmugichocolateでやっていきたいことを教えてください。
界外:MotherRingに注力して、「優しさの価値化」をしていきたいと思っています。
——優しさの価値化とは…?
界外:ドゥーラの方々は、みんなとにかく優しいんですよね。でも、世の中にドゥーラの存在がまだまだ知られていないために、それが立派な専門職であり、価値ある役割であることが認識されていません。ドゥーラなど、産前産後のケアワーカーだけでなく、人をケアする職業は比較的低賃金であることが多いです。
MotherRingでは、そういったケアワーカーの方々の「優しさ」が社会的価値として認識され、正当な対価をもらえるような仕組みづくりに貢献したいと思っています。これまで、家庭内で無償で提供されてきたケア(優しさ)の幾分かは、きちんと労働として評価され対価をもらえるようになるべきだと思っているんです。それは、ケアをする人、受ける人だけでなく、すべての人にとって良いことではないかと思っています。
——具体的にはどのような活動をしていく予定ですか?
界外:ケアを必要としている人と提供したい人が繋がるための、マッチングの仕組みをつくりたいと思っています。。他にも、より専門的な価値を高めるための教育プログラムを充実させていきたいですね。
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自分の想いを熱く、そして時にはユーモアを交えて話してくださった界外さん。「やってみたい」と思ったら、すぐに行動に移すパワフルさに引き込まれる時間でした。「優しさが価値化した社会」に向けての挑戦をco-ba shibuyaとしても応援していきたいと思います。
[Profile] 界外亜由美
mugichocolate株式会社 代表取締役1978年 三重県伊賀市生まれ。甲南女子大学文学部人間関係学科卒。リクルートメディアコミュニケーションズで広告制作ディレクターを経験したあと、数社の広告制作会社でクリエイティブ・ディレクター、コピーライターとして活動。2018年2月14日、mugichocolate株式会社を設立。コピーライターとして培った言葉の力と、デジタル・ソーシャル・マーケティングを掛け合わせた総合的なコミュニケーション設計を提供しています。クリエイティブ制作事業のほか、自社事業「MotherRing」にて、産前産後の家庭とケアワーカーをつなぐマッチングサービスや講座コンテンツを企画・運営しています。